大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(行ツ)41号 判決

山口市大字道場門前四一番地

上告人

株式会社 杉本運動具店

右代表者代表取締役

杉本耕作

右訴訟代理人弁護士

徳富菊生

山口市黄金町七番二八号

被上告人

山口税務署長 辻谷亶

右当事者間の広島高等裁判所昭和四一年(行コ)第五号審査決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四二年二月七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人徳富菊生の上告理由について。

所論の点に関する原審の認定・判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法はない。所論は、ひつきよう、原判決を正解しないか、その認定しない事実を前提として原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

(昭和四二年(行ツ)第四一号 上告人 株式会社杉本運動具店)

上告代理人徳富菊生の上告理由

原判決には判決に影響をおよぼすことが明らかな次のような違法の点がある。

第一点 原審判決は証拠によらないで事実を認定した違法がある。

即ち、原判決(控訴審判決が引用する第一審判決理由三、(四)第二段は)、「右各増資株式は、原告が杉本名義で保有する右訴外会社株式に対し割当られたものであつて」と判示して、訴外美津濃株式会社の第一回増資新株割当当時上告人が杉本名義で右訴外会社の株式を保有して居り、そしてその保有株式に対して第一回増資新株が割当られた旨判示しているけれども、上告人は杉本名義で同訴外会社の株式を保有していた事実はない。その事実は乙第六号証の四(法人税調査事績調書)の出資金の内訳記載に訴外会社の株式の存在していないこと及び乙第七号証の五(出資金内訳書)に美津濃出資金四五、〇〇〇円九〇〇株の記載(但し、これは個人杉本耕作所有の親株(原始株)三〇〇株に対して一対三の割合で同人に対して第一回増資新株として割当が行なわれた際の新株九〇〇株であつて、上告人会計係が誤つて計上記載の行なわれたものである。)のみあつて、その割当の基礎となつた親株の記載のないことに徴しても上告人が右訴外会社の株式を杉本名義で保有していた事実のないことは明かであるし、そのほか上告人がこれを保有していたことを証明する証拠は何等存在していない。

この点原審判決は証拠によらずして、又は証拠を無視して不当に事実認定をした違法がある。

第二 点原審判決には審理不尽、理由不備の違法がある。

即ち、原判決は「控訴人の当審での主張はすべて本件増資新株の取得者が当初から杉本耕作であつたとし、従前の控訴人の計理事務の処理に誤りがあつたことを前提とするものであるから採用しがたい。」と判示して、上告人が訴外美津濃株式会社の増資新株の払込に関する計理事務処理をその当初において誤り、後にこれを訂正したものである旨の真相事実の主張をすべて退けているのであるが、他方では同訴外会社の前後四回に亘る増資新株式のうち、その第四回目の増資割当新株一、八〇〇株については、そのうちの一五〇株は杉本耕作個人が所有している親株三〇〇株に対して割当られた新株式であるから、その部分は上告人のものではないとして除外して右判示とは相違した判示をしているのである。そしてこの考え方は第四回目の増資と全く同じ条件のもとにおける第一回目乃至第三回目までの増資に対しては採り入れないで、これとは異つた判断がなされている。即ち、全く同一事情のもとにおいて行なわれ訴外会社の第一回乃至第四回の増資新株の払込に対してその内の第一回乃至第三回までの増資新株はその全部が上告人のものであり、第四回目の増資新株についてはその一部(一五〇株)は杉本耕作個人のものであり残部(一、六五〇株)は上告人のものであるとの判示がなされているが、何故に斯かる異つた判断がなされているのかその合理的理由は示されていない。

この点について原判決(控訴審判決が引用する第一審判決理由三、(四)第二段)は、「以上の各事実によれば右第一回ないと第三したのは杉本ではなく原告であると認めるのが相当であり」と判示しているのであるが、第四回増資新株割当の際にのみ親株が問題にこれていて、それ以前の第一回乃至第三回の増資新株割当の際には何故にいずれも親株の点が考慮せられていないのかその証拠も亦合理的な理由も示されてはいない。却つて「右増資株式は原告が杉本名義で保有する右訴外会社に対し割当られたものであつて」と述べて恰も上告人は右訴外会社の株式を第一回増資新株割当の当時から保有していたものの如く判示している。(この点の不合理性は前記第一点に記述のとおりである。)

若しこの判示通りとすれば、第四回増資の場合の新株割当合計一、八〇〇株を杉本耕作個人分一五〇株と上告人分一、六五〇株とに分別した理由が成り立たない。又第四回増資新株の割当については、杉本個人所有の親株三〇〇株の存在を認めるのに拘らず、その同一論旨が何故に同事情の第一回乃至第三回の増資新株の割当に際して適用されないのか、この点原判決の論旨乃至理由は首尾一貫していない。何となれば、杉本耕作個人は訴外美津濃株式会社の株式三〇〇株を上告人会社設立前の昭和二十四年四月十三日に取得して以来杉本個人として引続き保有していたものでありその株式を上告人に対して譲渡した事実は全然ないのであつて、その事は第一回増資新株割当時も亦第四回増資新株割当時も全く同様であつたのである。従つて、同訴外会社の第一回増資新株は右杉本耕作個人所有の持株(原始株)三〇〇株を親株として一対三の割合で割当てられたものであるから、この割当られた新株九〇〇株は全部杉本耕作個人の新株でなければならない。その当時上告人は新株割当の基準となる訴外美津濃株式会社の親株は一株もこれを所有していなかつたのであるから上告人が前記第一回増資新株割当の九〇〇株を取得する理はない。この論理は原判決が第四回増資新株の割当に対して一五〇株を除外した考え方と全く同一論理に基くものである。にも拘らず原判決はこの第一回増資新株式九〇〇株については、第四回増資新株割当の場合における正当な考え方とは異り、その全部が上告人のものであると判示していて、明らかに前後相異つた判定が行なわれている。次に、同訴外会社の第二回増資新株割当の場合は杉本耕作個人所有の前記原始株三〇〇株と同人に対して第一回増資時に割当られた新株九〇〇株との合計一、二〇〇株を親株として一対一の割合で新株割当がなされたのであるから、この場合の割当新株一、二〇〇株も亦全部個人杉本耕作の所有であるべき理である。当時も亦第一回増資新株当時と同様上告人は第二回新株割当の基準となる同訴外会社の親株は一株も所有していなかつたのであるから、上告人が前記第二回増資新株割当の一、二〇〇株を取得する理はない。この論理は原判決が第四回増資新株の割当に対してその内の一五〇株を除外した考え方と全く同一論理に基くものである。にも拘らず、原判決はこの第二回増資新株式一、二〇〇株についても第四回増資新株割当の場合における正当な考え方とは異り、その全部が上告人のものであると判示していて、明らかにこの場合も前後相違した判定が行なわれている。

更に又同訴外会社の第三回増資新株割当の場合は、杉本耕作個人所有の前記原始株三〇〇株と前述の如く同人に対して割当られた第一回増資新株九〇〇株及び同様同人に対して割当られた第二回増資新株一、二〇〇株以上合計二、四〇〇株を親株として二対一の割合で新株割当がなされたのであるから、この場合の割当新株一、二〇〇株も亦全部個人杉本耕作の所有であるべき理である。当時も亦前記第一回及び第二回増資新株割当の際と各同様上告人は第三回新株割当の基準となる同訴外会社の親株は一株も所有していなかつたのであるから、上告人が右第三回増資新株割当の一、二〇〇株を取得する理はない。この論理は原判決が第四回増資新株割当に対してその内の一五〇株を除外した考え方と全く同一の論理に基くものである。にも拘らず、原判決はこの第三回増資新株式一、二〇〇株についても第四回増資新株割当の場合における正当な考え方とは異り、その全部が上告人のものであると判示していて、この場合も亦前同様に前後相違した判定が行なわれている。

最後に、同訴外会社の第四回増資新株割当の場合は杉本耕作個人所有の前記同原始株三〇〇株と前述の如く同人に対して割当られた第一回増資新株九〇〇株及び同様同人に対して割当られた第二回増資新株一、二〇〇株並びに同様同人に対して割当られた第三回増資新株一、二〇〇株以上合計三、六〇〇株を親株として二対一の割合で新株割当がなされたのであるから、この場合の割当新株一、八〇〇株も亦全部個人杉本耕作の所有であるきべ理である。当時も亦さきの第一回、第二回及び第三回増資新株割当の際と同様上告人は第四回増資新株割当の基準となる同訴外会社の親株は一株も所有していなかつたのであるから、上告人が右第四回増資新株割当の一、八〇〇株を取得する理はない。

以上のような事情で訴外美津濃株式会社の株式を上告人は終始一株もこれを所有してはいないのであるが、その第一回目の増資新株の払込を個人杉本耕作の為に立替払込みをなすに当り、経理智識不充分と事務処理不慣れの会計事務係藤田士典が恰も上告人自身が上告人の為にこれを払込みしたかの如き誤つた事務処理を行つたのであつて、その後同様の誤り並にこれに関連する一連の事務処理の誤りを重ねるに至つたものであつて、第四回の増資払込のあつた事業年度末までその誤りを発見できずに経過し、同決算期に際して過去の誤りを気付き第一回増資分よりの科目訂正処理を行つて従来の誤りを改めたものである。

原判決は第四回目の増資新株割当の場合には個人杉本耕作所有の親株三〇〇株に対する増資新株の割当をみとめ、他方第一回乃至第三回の増資新株割当については個人杉本耕作の持株についての割当は全くこれを無視しているが、これは明らかに論旨不統一であり審理不充分である。

原判決は第四回増資新株割当の場合に限りその割当株一、八〇〇株のうち一五〇株は杉本耕作個人のものであり、残余の一、六五〇株は上告人のものである旨判示しているが、このように分別せられた合理的根拠とその証拠とは共に示されていない。訴外美津濃株式会社の第一回乃至第四回の増資新株の割当は上述の如き経過をたどつてきたものであつて、原判決が判示しているように第一回乃至第三回の増資新株三、三〇〇株と第四回増資新株のうちの一、六五〇株は上告人のものであり、第四回の増資新株のうちの一五〇株は杉本耕作個人のものであるとの事実認定は論理矛盾首尾一貫しないものである。換言すれば訴外会社の第一回目乃至第三回目の増資新株の割当帰属と第四回目の増資新株の割当帰属とが相異る旨の判示について具体的合理的理由も説示せられて居らず、又その旨を証明せられる何等の証拠も挙示せられてはいない。すると原判決はこの点において挙示の証拠と認定事実との間に重大な理由不備があるか、若しくは証拠によることなくして判断を行つた違法があるものと言わなければならない。

従つて、原判決は破棄せらるべきものと信ずる。

以上

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